卒業生リレーエッセイ

リケジィ(理系爺)は現代社会学科卒業生 -7回生・岩瀬彰孝さん【卒業生エッセイ特別編】

リレーエッセイではありませんが、現社卒業後、2014年3月に本校の大学院システム自然科学研究科を卒業し、中日新聞の取材を受けた岩瀬彰孝さんから寄稿をいただきました。

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平成26年3月で名市大10年生を卒業した現代社会学科7回生 岩瀬彰孝です。

平成16年高校教員定年退職を機に、社会人選抜で人文社会学部現代社会学科3年次編入、吉田一彦先生のゼミに所属しました。学部卒業後大学院人間文化研究科博士前期課程へ入学しましたが、学力不足のため挫折退学し、平成20年大学院システム自然科学研究科博士前期課程入学試験を受験しました。

この時私は大学院を挫折退学した浪人生(老人生?)社会人選抜には該当しません。英語の科学論文の日本語訳と化学専門分野の口頭試問を全国から集まった若くて優秀な学部卒業生たちと対等に受験競争をしなくてはなりません。3ヶ月間毎日図書館に通って、学術誌NatureやScienceに掲載されている科学論文を、短時間で正確に日本語に訳す練習をしました。化学の専門分野の口頭試問については年の功と得意の話術で何とか切り抜けましたが、英語の試験結果については試験官の先生から「入学したらもっと勉強してください」と言われました。

事実入学後、研究テーマに関する参考論文はほとんど英語でしたし、特に博士後期課程では読むだけでなく、自分の論文を英訳しなければなりませんでした。また、それを専門誌に投稿したときのReviewer(査読者)とのやりとりも当然英語でしたし、結果的には掲載されるまでに一年かかりました。そのため課程博士にはなれず、博士後期課程修了後一年遅れで論文審査を受け、本年3月に博士(生体情報)の学位を授与されました。このことが、平成26年3月19日(水曜日)中日新聞夕刊10頁の社会面を飾りました。

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なんで10年間も在籍していたかと言うと、それは名市大が大好きだからです。なんで大好きかと言うと、それは先生方が私のような高齢者に対して若い学生と分け隔てなく、熱く厳しく指導してくださるからです。大学院とは何かということについて気づかせてもらえたのもこの名市大でした。それまでは大学というところは先生から教えてもらったり、自分で調べたりして教養を積み、知識や応用力を身につけるところと理解していました。だから学生は学歴、学位、スキル、資格などを得るために来ている人がほとんどと思っていましたし、事実そうかもしれません。それに比べて私の場合、知的好奇心を満たすことと、先生や他の学生と交流することが主目的であったので、ここで学んだことを社会に還元するには年齢を重ねすぎていることに後ろめたさを感じていました。

そんな引け目が大学院の指導教官のある一言で一気に吹っ切れたのでした。それはシステム自然科学研究科大学院後期課程一年生の時でした。自分の立てた仮説を証明するために有効な新規の化学物質の合成実験について文献を調べたら、原料試薬の一つは1グラムで7万円かかることがわかりました。あまりに高額だから指導教官に恐る恐るこの実験計画を提案してみました。その返事は「はい、やってみてください」とまあここまでは気前のいい先生だと感心しただけでしたが、その後に続く言葉には聞き違いかと一瞬我が耳を疑いました。それは「お願いします」でした。「えっ? 何で? こちらからお願いしているのに何で先生からお願いされちゃうわけ?」

その時、ずっと前から記憶のどこかに引っかかっていた別のある先生のつぶやきが思い出されました。それは「戦力にならない院生は要らない」でした。そうか、そういう意味だったのかと、今さらながら大学院での研究について少し理解できた気がしました。指導教官と大学院生との関係は、その研究についての共同研究者でもあると言うことです。だから仮設を実証するために有効な実験についてはお互いに「お願いします」となるわけです。この関係は研究成果を専門誌に投稿したとき、はっきり理解できました。つまり、私がFirst author (第一著者)で、指導助言してくれた先生方は全てCoauthor (共著者)、特に指導教官はCorresponding author (責任著者)となるのです。

私の英文論文は世界中の科学者が最も多く利用しているSciFinderというデータベースに登録でされています。いつの日か私の研究対象物質ピリジニウムアゾ色素の有用性が脚光を浴びる時が必ず来ます。その時、岩瀬という好奇心旺盛な人間の生きた証が世に示されるはずです。これでお浄土からいつお迎えが来てもいいのですけど、まだまだ私は古希、本音はまだまだこの大学においてもらいたいのです。しかし大好きな名市大に迷惑をかけるといけないから、ここらで別の好奇心対象物にシフトすることにします。

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