卒業生リレーエッセイ

ちびのミイとの対話 -人間10期生 服部裕規さん【卒業生リレーエッセイ(B-15)】

「とびらはあけてやらないぞ」と、ムーミントロールは言って、だしぬけにちびのミイの目を見つめました。その目はとても楽しそうで、いたずらっぽく、あんたの秘密なんか、みんな知ってるわよ、とでも言いたそうでした。それで、むしろムーミントロールは、気がらくになりました。(トーベ・ヤンソン著 『ムーミンパパ海へ行く』より)

ちびのミイ 1このエッセイは、ムーミン・シリーズに登場する
「ちびのミイ」との対話*でお送りします。
何故かって?
「会話するのにいちいち理由なんていらないわよ」
そういうことです。


以下、■は僕、□はミイです。
■ 投稿が遅くなって申し訳ありません。人間科10期の服部裕規と申します。
□ せっかくあんたの前の人が律儀だって紹介してくれたのに、情けないわね。
■ ここに何書くか迷い過ぎた。
□ 言いわけはいいから、はやく進めなさいよ。
■ 僕は、曽根さんに紹介していただいたように、オーケストラ部でバイオリン弾いてました。
□ 途中でやめたじゃないのさ。人間関係にもクラシック音楽にも馴染めずにね。
■ フィドルが弾きたかったってだけだよ。あと今でも仲いい友達はいるよ。
□ フィドルってバイオリンのことでしょ?何が違うのよ。
■ 最近思うんだけど、区別することにあまり意味はないかもね。
□ あんたが言い出したんじゃないの。
■ 音楽を意味で区切るのは音楽的じゃないというか。
□ でもあんたが好きなのはフィドルなんでしょ。意味わかんない!
■ とりあえず今やってる音楽について、写真と動画のURLだけ載せとこう。
Frey Crey 並木道にて
( Frey Crey https://youtu.be/qsiQP1hwAZI

■ 並木道って人工的な中にある純粋な美しさって感じが切ない。
□ 木なんてどこにどう生えてようが木じゃないの。
■ まあね。話は変わりますけど、人間科では有賀ゼミで教育について学んでました。
□ 教育って、「すべき」と「すべからず」のことでしょ?スナフキンが聞いたらなんていうかしら。
■ 実は、塾の個別講師も8年ぐらい続けてんだけど。
□ あたいはあんたなんかに教育されないわよ!
■ でも、ユニークな考えや試みを語るひとつひとつの声やことばを対話の中で「聴(ゆる)す」ことを
蔑ろにするべきじゃない、とは思ってる。個人的に。
□ ゆるす?あんた、子どもがみんな悪い子だと思ってるの?
■ いや、思ってない。「聴(ゆる)す」ってのは「聴(き)く」の中にある魂みたいなものというか。
□ あんたが何を言いたいのかよく分からないわ。
■ 個人的な見解だけど、「聴(ゆる)し」は『風の谷のナウシカ』によってとても生々しく強調されてる。
□ ムーミン谷にはナウシカなんていないわ。
■ というか、この話の前に言うべきことがあるんだ。
僕は、有賀先生のもとで博士前期課程を修めた後、国際学科の野村直樹先生に弟子入りしました。
□ 知ってる。あんときは行くべきところに行き着いたって感じだったわね。
■ ベイトソン、バフチン、社会構成主義、協働するナラティヴ、オープンダイアローグ、E系列、等々。
野村研究室では、今後の世界と人間のあり方を左右するような知が脈動していました。
ちびのミイ 2□ あたいの中ではいつだって衝動が脈動してるわ。
■ そこは温かくも刺激的な世界でした。
□ あたいも刺激的ってよく言われるわ。
■ 野村先生は命の恩人です。
□ 生きててよかったわね。で、ナウシカはどうなったのよ。
■ そんな野村研究室で、僕は、「聴(ゆる)し」と『風の谷のナウシカ』の研究をしてきたというわけです。
□ それで何が分かったの?
■ 実はですね、この研究論文、今度ジャーナルに載るんですよ。
□ あたいに読めっての?その前に風の谷に連れて行きなさいよ。
■ 本気?あそこ蟲だらけだけど。
□ へいきよ!あたい、ありだってこわくないわ!**
■ そうか、まいったな。**
ところで、名古屋市立大学には11年間もお世話になりました。
□ やたら長いわね。感謝なさいよ。
■ 本当に感謝しかないです。では、そろそろバトンを。草間乃と子先輩、あとはお任せします。
有賀ゼミと大学院でお世話になった、やさしくて聡明でかっこいい大先輩です。
□ へえ、あたいみたいね!
■ いや、ちがうと思う。なにとぞよろしくお願いします。
□ ちょっと待ちなさい。あたいの紹介がまだじゃない。
■ 残念ながら分量的にもう無理ですね。
□ なによそれ!要領わるいわね!
■ でも、対話は予測不可能なものって野村先生に教わったでしょ。
思い通りになんかならなくていいし、なるわけがない。そういうもんだよ。
□ ふん!あたい分かったわよ。それが「聴(ゆる)す」ってことなんでしょ?
■ まあ、この話の続きはムーミン谷で。

* この対話は、トーベ・ヤンソンのムーミンシリーズを参考に、敬意と愛情を持って書かせていただきましたが、基本的には僕の妄想にすぎません。ムーミンママのような温かい目で見ていただければ幸いです。文中のミイの写真は『ムーミン谷絵辞典』からの引用です。
** 『ムーミン谷の夏まつり』で、ミイとスナフキンが遭遇する場面より。

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